■Prolouge〜プロローグ〜

物語の舞台となる伝説〜プロローグを紹介します。

 狭間の世界・ラクリマ。
この地は魔界・ウェスペルと天界・エクラの争いを嘆いた女神の涙によって生まれた土地である。

 しかし、いがみ合う二つの世界に挟まれたラクリマは、その誕生から常に魔界からの侵略に脅かされる宿命を担っていた。
その脅威からこの地を守るべく能力を与えられたのが魔法使いや魔女たちである。
彼らはその能力を遺憾なく発揮し、ラクリマの人々を守ることを使命として戦っていた。

 中でも使い魔を使役し、精霊の力を引き出すエレメンタルリンカーの能力は非常に重宝がられた。
だがエレメンタルリンカーになれる才能を持つ者は少ない上、使い魔そのものもなかなか誕生しない宿命――。
 そのため、魔界との圧倒的な力の差は埋められず、ラクリマはあえなくその脅威の波に飲み込まれそうになる。

 それを救ったのが大いなる使い魔リンクスを従えた伝説の精霊使い“グランデ・リンクス”であった。

 こうして世界に平穏がもたらされ、早数百年……。
伝説はすでに過去のものとなり、それぞれの地方や民族によっていくつかの国々に分かれ、自治が進んでいった。

 しかしながら、魔法だけは相変わらずの一極支配のまま。それゆえ魔法省は静かに、そして確実に腐敗への道をたどっていくのであった。
 むろん、そこに所属する魔法使いたちの意識も同様に、少しずつ、しかし確実に変質していく。
 奉仕の精神は特権意識へと――。民へ分かち合うべき魔法の恩恵は既得権益を守る方向へと――。

 そんな状況の中、一人の若き魔法使い・ヘリオドールは、「魔法は一部の特権階級だけが保持するものではない」という意識から、魔力のない者でも魔法を使える“錬金術”という考えを提唱。
 その思想は瞬く間に魔力を持たない民衆に支持されたばかりか、同じ魔法使いの間からもその思想に賛同する者が多数現れたのであった。

 ところが、そうした理念が活発に議論される中、提唱者であるヘリオドールの姿がラクリマから忽然と消えてしまう。
 そうした動きを苦々しく思っていた中央の魔法省の仕業であるとか、ラクリマの文明のレベルが上がることを良しとしない魔界の仕業であるとか、さまざまな憶測が流れたものの、真相は未だ闇の中――。

 しかし、その事件があったからこそ、逆に人々へ錬金術という思想を広く広めることとなったのは、皮肉ではあるが確固たる事実であった。

 その事件から十数年後――。
 錬金術の理念が実践に移り変わり始めた今日。ついに魔法の教育機関としては名門中の名門である“クロイゼルング魔法学院”が錬金科を新設。
クロイゼルング魔“術”学院へと名称を変更し、魔法という恩恵を広く解放する方向へと大きく舵を切った。

 このことは中央の魔法省にとっては驚愕の事実であった。自分たちの母校が、自分たちへ刃を向けたように感じた者もいたほどで、ひそかに錬金術科が成立しないよう裏から手を回したという噂話もある。

 そして今、錬金術の才能を秘めた若者が、その渦中に飛び込んでゆく。
それは天の采配か、はてまた血の導きか―――。

 その彼に導かれるようにして、大いなる力も目覚めようとしているのに気づくこともなく……。