風は土を削り取る――。
どんなに硬度の高い土の属性でも、いや、固いという「固体」を本質に持つ土の属性だからこそ、柔軟かつどんなに研ぎ澄まされた刃よりも鋭い風の前では力を失ってしまう。少なくとも、全くの無事になることはできない。
風が土壁に穴を穿ったり、土の小山を削り取っていくのは、一見緩慢であり、僅かずつの量ではあるかもしれない。
しかし、固体であることが主である土の属性にとっては、「固体であることを(いかな僅かな量であっても)崩される」ということは、本質そのものへのダメージとなるのである。
固体は固体であるがゆえに、その属性を保つことが許されるのだ。立方体の角が僅かに欠けただけでも、それは厳密にはもう立方体ではない。
それゆえか、属性の相性としては前述の「火と水」「水と土」ほどの明白さはないものの、やはり土は風に弱いのである。
無論、ここでも量的な例外は生じる。
風が土を削ろうとも、最終的にその土壁が守るべきもの(術者)を守りきれればそれは土が風を勝った、ということになるだろう。
また、風は土以外のほかの属性と比しても決まった形状を持たない、実体に乏しい属性である。その不定形な柔軟さは勿論強みではあるのだが、それだけに相対するものが圧倒的な量に勝るものであれば、容易にその方向性を捻じ曲げられたりもしてしまう。
超長期的な意味合いで言えば、先のように土の壁は風に削られるものではあるのだが、それでもやはり、土壁は風を遮るものなのである。
風は定まった形を持たないがゆえ、何よりも柔軟で何ものにも閉ざされたり、分かたれたりもしないものでは、ある。
しかし、その柔軟性がゆえに備え持つデリケートさがゆえ、その性質(土属性への有利、という意味においても)を正しく発揮する必要が術者に課せられるのだ。